韓国に対する半導体原材料輸出規制についてまとめ
こんにちは、寝てタイガーです。
一昨日7月4日に経済産業省が韓国に対して半導体製造などに使われる化学製品3品目の輸出規制に踏み切りました。
行きつけのラーメン屋でネギ味噌ラーメンを食べている時に近くのサラリーマンが話題にしていたので、いい機会なので調べてみました。
日頃からアンテナを感度高く立てておけば今回のようにニュースが出てきても、経緯や背景を知っているからすぐに理解できるのでしょうが、あいにくそこまで頭がよい訳ではないので、これを機に経済の情報にも触れてみようと思います。
今回の経済制裁の概要を知る
今回のようなインパクトのあるニュースが出た場合は、各メディア媒体がこぞって様々な意見を書くので情報が混乱しがちです。
まず、ざっくり今回の経済制裁について知るためにテレ東yotubeを見ました。
25分くらいの動画ですが、話をしているJPモルガン証券の方の解説がとにかく分かりやすいので一度みておくと今回の件を概要を把握することはできるかと。
こちらの動画の内容をまとめると、結論としては「韓国経済の4分の1に影響が出る可能性ある」ということのようです。
- 日本政府が韓国に輸出するパソコン、スマートフォン、テレビなどに使われる半導体を作るための材料3品目に規制を入れてきた
- 半導体→半分電気を通す導体→電気が通るためのスイッチ
- 世界でも半導体の市場は大きく50兆円規模になる
- サムソン、SKハイニックスの2社が世界シェアの約26%を占める
- この2社が韓国の株式市場の25%の時価総額を占めている
- このことからも韓国経済にとって大打撃になる可能性がある
- 輸出規制される3品目は日本メーカーのシェアが大きいものになる
- フッ化水素→半導体洗浄に使用→日本メーカーが90%以上の世界シェアをもつ
- レジスト→半導体現像に使う原料(半導体基盤に塗る感光材)→世界の半導体メーカーで使用される→国内大手5社で世界シェアの8割を占める
韓国半導体製造2社は今回輸出規制対象となった3品目の在庫がある内は製造できるが、 長くて4か月ほどの在庫しかないのではないか
- 日本の材料メーカーにとっても一時的な売上現象につながる
- が、競合大手として米マイクロンテクノロジーの存在がある
- DRAMに関しては、アメリカに対する輸出を強化することにより、マーケットシェアを米マイクロンテクノロジーがとる形になる
- NANDフラッシュメモリー→デジタルカメラの画像、音楽、動画をパソコン、スマートフォンに記録するための半導体
- トップはサムソンエレクトロニクス
- 2,3位はウェスタンデジタル、東芝
- 生産では実質世界2位は東芝
メーカーは規制で売上が現象するが、半導体メーカーの間でのシェアの移動があるので、新たに移動したシェアをとった メーカーの売上が増えるので、将来的に見れば、今回のマイナスと相殺できるので大きなマイナスにはならないのではないか
フッ化ポリイミド輸出規制の影響は?
- 日本の完成品メーカーへの影響が若干でてくる。2つのポイントを想定
- シナリオ1→世界で有機ELパネルをほぼ1社で生産しているLGディスプレイがパネルを生産できなくなり、その結果LGディスプレイからパネルを購入して製品を製造しているソニー、パナソニックなど日本のTVメーカーが一時的に有機ELテレビを製造できなくなる
シナリオ2→フッ化ポリイミドは他の輸出規制対象2品目と比較して生産する技術的難易度がそこまで高くないと想定。韓国のローカルの材料メーカーでも技術的な精度が上がって、日本以外の材料メーカーから購入することも可能になる。
フッ化水素の代替品が今後出てくる可能性は?
- 難しいと思う
- 歩留まりが高い状態でないと価格、利益率を維持できない
- そのためには高い品質が求められる
- フッ化水素は中国の蛍石を原料とし、製品化の最終工程の精度を高めるためには日本メーカーの独自の技術を用いている
- 微細な加工をする半導体の世界では非常に高純度なフッ化水素が求められる
- 短期的に韓国、中国の会社が日本の材料メーカーの技術にキャッチアップするのは困難
- 日本メーカーが製造する輸出規制3品目の品質は非常に高い
- 30~40年近い歴史の中で培われた技術とマーケットシェア
技術が変わる局面ではシェアが変動することはあり得るが、今回のような規制によってシェアが変わることは難しい
今回の規制が日本企業と韓国企業に与える影響はどちらが大きいか?
- 圧倒的に韓国企業に与えるマイナスの影響が大きい
- 株式市場の4分の1を占める半導体大手2社に対する影響を抱える韓国では影響が大きい
半導体以外のその他の分野が大きい日本については影響は限定的と思われる
今回の輸出制裁が今後の与える影響は?
- 仮に今回の制裁が恒久的になった場合、世界の半導体生産市場の4分の1が停止することになる
今後の市場のニーズを考えると通信市場では5G、自動車市場では自動運転、その他IoT、クラウドなど至るところで半導体は必要不可欠になってくる
- ただ、各企業は韓国企業以外の競合他社への切り替えなど柔軟に対応していくと思われる
- 半導体の在庫が切れる2~3か月後に影響が出てくると思われるので、今年の年末商戦に影響がでる可能性はある
世界の半導体のシェアはどうなっているのか
テレ東の専門家の解説youtubeは2回見てやっと内容がつかめた感じがしました。 やはりこれまでノーマークの話題に関して一度に内容を理解することは難しいですね。
動画の中でいくつかキーワードが出てきたので、1つずつ内容を見ていきたいと思います。
まずは今回の輸出制裁品目を使用する「半導体」について。
韓国の大手2社が世界シェアの約26%を占めているという話でした。 この2社とじゃ、サムスンとSKハイニックスの2社です。 2018年4月の記事でサムスンが半導体メーカーの世界ランキングで初めてインテルを超えた、とあります。
私の中で「半導体」というと、パソコンの中の部品というイメージしかなかったのですが、世界シェアの現状を観察してみると「半導体」を製造するメーカーは、
の大きく2つに分かれているようです。
大まかに色分けすれば、米国勢を中心とした先進国の半導体メーカーは依然、先端技術で世界をリードしているが、韓国勢を筆頭とした新興国の半導体メーカーは、低価格を武器に汎用品でシェアを握るようになった。“質”の先進国、“量”の新興国に勢力が二分しているともいえよう。市場規模の大きいメモリ(記憶装置)が得意なサムスン電子は、新興国の成長の象徴でもあるわけだ。
同社は大手半導体メーカーでは珍しくなった総合電機・電子機器メーカーでもある。半導体事業の柱はメモリで、DRAMでは世界第1位。しかし、DRAMは成熟市場であり、価格競争も激化している。そのため、新しい事業の柱の育成を急いでおり、NAND型フラッシュメモリ、LEDを使った液晶ディスプレイ、さまざまな半導体のセット「システムLSI」などに力を入れている。
サムスンが主力にしているDRAMというのはこちら。 パソコンを分解したことがある方は見たことあると思いますが、マザーボードに刺さっているメモリです。
韓国企業の主力製品であるメモリ。その中でも世界シェアを握るDRAM、そして新事業として育成を急ぐ、NAND型フラッシュメモリ、LED液晶ディスプレイなどが今回の輸出制裁の影響をもろに受ける。
ただ、「半導体」の分野は当然サムスンなどが手掛ける汎用メモリだけではありません。 もう少し広い視野でみるためにこちらの記事を参考にしました。
DBハイテクは韓国「システム」半導体の現状を象徴的に示している。半導体強国だと自慢はするが、厳密に言うとただの「メモリー強国」にすぎない。
国内メーカーが世界メモリー半導体市場で占める比率は60%に達するが、システム半導体のシェアは3%余りだ。世界1位の米国(70%)はもちろん、台湾(8%)や中国(4%)にもおされている。
サムスン電子やSKハイニックスはDRAM・NAND型フラッシュメモリーのようなメモリーに電力を集中している。メモリーはデータを記憶して保存する半導体だ。 システム半導体(非メモリー)はデータを処理して演算・制御する機能を果たす。コンピュータ中央処理装置(CPU)、スマートフォンのアプリケーション・プロセッサ(AP)のように製品の「頭脳」の役割だ。世界半導体市場の4分の3ほど、金額では2880億ドル(約326兆ウォン)を占めるのがシステム半導体だ。
もちろんサムスンやハイニックスもシステム半導体を生産している。ただし、サムスン電子はモバイルAPやイメージセンサーなど自主的に必要な物量が中心だ。同社は6兆5000億ウォンを投じて京畿道華城(キョンギド・ファソン)に次世代極端紫外光(EUV)ラインを建設中だが、メモリーに比べると投資が消極的だ。ハイニックスはシステム半導体の売上が全体の1%余りだ。
韓国は汎用メモリで世界シェアを握る一方で、システム半導体のシェアはそこまで大きくないようです。
記事内の後半に気になる記述を見つけました。
「半導体に初めて投資した1970年代から日本の影響でメモリーに集中し」
ここです。
一読して意味が分からなかったので、日本の半導体産業の歴史について調べてみました。
日本と韓国の半導体産業のこれまでの経緯
1970年代後半、主役はDRAMに移りかわります。米国が主導権を握っているDRAM市場に日本の総合電機メーカが続々と挑んでいきます。日本勢は微細な加工技術と徹底した品質管理で市場を奪っていきます。1980年代中頃にはDRAM市場トップ5を日本企業が独占。あまりの強さに米国との貿易摩擦にまで発展します。この頃日本企業の勢いを観て韓国でもDRAMの組立生産が開始されます。「日の丸半導体」が時代の寵児となったのです。
日本が米国からDRAM市場トップ5を奪い、その勢いを見ていた韓国はDRAMの組み立て生産を開始。このころから始まった半導体事業がその後急成長を遂げます。
「日の丸半導体」が世界のトップに上り詰めた80年代、韓国政府はDRAMを国家戦略産業と位置付け育成に力を注ぎます。積極的な大型投資と独特な人材活用で急成長を遂げ、90年代には日本や欧米と肩を並べます。世にいう「漢江の軌跡」の総仕上げがはじまったのです。国をあげて「汎用品メモリ」に特化した戦略は、あっという間に世界を飲み込みます
その後、90年代にはパソコンの普及によって市場に変化が起こります。
90年代に入りパーソナルコンピュータの普及が進みます。DRAMの主な用途がサーバからパソコンに交代し市場に変化が起こります。「品質」よりも「価格」が優先されるようになります。
このころ半導体製造装置メーカの技術革新により、容易に大量生産が可能になり一気に転換期が訪れました。これはDRAMが「機能部品」から「汎用品」へと変わったことを意味しました。日本メーカが作るDRAMはオーバースペックになり市場から受け入れられなくなります。
先を行く日本の勢いを見て自国内でもDRAMの組立生産を開始した韓国。メモリに関しては東芝に対する産業スパイの件などで揉めましたが、国家戦略による選択と集中で世界シェアをとる韓国と消える日本。 原材料の生産を握る日本から韓国に対する輸出制裁で打撃を受ける韓国。 とここまで見ると本当因縁の関係という感じです。
フッ化水素について
原料は中国の蛍石というアニメか漫画かゲームのアイテムの名前のような石を原料にしているフッ化水素。
日本国内でその市場をほぼ独占しているのが森田化学工業株式会社です。
蛍石に関して自社のHPで触れられていました。
不純物が少なく含有量の多い蛍石は主に中国から採掘されています。安定した原料の確保と生産工程の高効率化のために、森田化学では中国国内の合弁会社でフッ化水素酸を生成し国内に輸入し、日本国内で加工しています。また、グローバルな展開に迅速に対応できる物流体制を築いています。
中国で原料を輸入して、日本国内で加工し、その後韓国に輸出されるという流れのようです。
原料が産出されるので、中国国内でもフッ化水素の製造自体はできるようですが、高純度にするためには日本メーカーの技術が必要なようです。
今回の制裁は今年の初めに関連する動きはあったようです。この時は誤報で終わったものの今回はこれが現実になりました。
少し冷静になるための記事を探す
ここまでの情報だと輸出規制によって韓国の産業がダメージを受けるという印象を受けますが、 東洋経済の記事は冷静です。
日本から韓国への直接輸出が規制されても、第三国経由で入手することは難しくないと指摘する経産省関係者もいる。この場合、余分なコストがかかるため、韓国企業には痛手となるが、「経営が傾くほどにはならないだろう」(関係者)という。逆に懸念されるのが、規制をかけて取引が停滞する間に韓国内でフッ化水素などの生産体制が整備されることだ。その場合は韓国内だけでなく世界中で日本企業と競合関係になることが予想され、長期的には日本の半導体材料メーカーにとって脅威になりうる。
参院選を前に対韓強硬策という「ポーズ」を打ち出した安倍政権。現時点で大きな影響がないにしても、対象品目を拡大したり、審査が長期化したりすれば日本企業にとっても悪影響が出る恐れがある。ある業界関係者は、「半導体業界には強い政治力がない。だから、こういったときに利用されてしまう」とぼやいている。
さらに冷静なのがこちら。
全てが過剰反応な報道です。基本的には今回の措置は対象品目の輸出に関して包括許可を個別許可に戻すだけの話でそれ以上でもないし、それ以下でもありません。包括許可は優遇待遇を受けられる条件を備えた国(ホワイト国)への輸出が対象となりますが、今回、韓国はホワイト国としての条件を満たさなかったのでそのリストから落ちた、ということになります。
では、メディアが騒ぐほど半導体製品が作れなくなるといった問題になるのでしょうか?個人的にはまずならないとみています。一時的に在庫調整はあるかもしれませんが、それ以上ないでしょう。理由は個別許可だとしても一契約一許可であって仮に今回の措置が実施されたとしても継続する契約についてはあたかも包括許可の時と同様、輸出は許可されるはずです
まとめ
今回調べてみて感じたことです。
- 何か大きなニュースが出た時は「なぜ今なのか?」を考える
- 今回の件で「得する人、組織」「損する人、組織」はだれかを考える
- 必ず両方の見解を調べた上で、自分の見解を考えてみる
- 「みんな」が騒いでいる時には冷静になること
確かに「騒ぎすぎ」な感じもしています。
専門家と呼ばれる人の話も誰かの損得に絡んでいるとすれば、何も考えず100%鵜呑みにしていいはずがないので、自分で考えてみるというのが重要だと思いました。